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法制審議会の答申と保釈保証書の牽連性についての考察

令和3年10月21日、法務大臣の諮問機関である法制審議会は総会で、刑事法(逃亡防止関係)部会による保釈中の被告人らの逃走を防止するための刑事訴訟法の改正などの要綱(骨子)案を原案通りに決定し、古川法務大臣に答申しました。

公開されている要綱(骨子)案によると、答申の概略は次の通りです。

 

1.被告人に対する報告命令制度の創設

2.監督者制度の創設

3.出頭等を確保するための罰則の新設

4.逃走罪及び加重逃走罪の主体の拡張等

5.GPS端末の利用に関する制度の創設

6.第一審判決後の裁量保釈の要件の明確化

7.控訴審判決期日への被告人の出頭の義務付け等

8.保釈の取り消し及び保釈保証金の没取に関する規定の整備

9.実刑判決後の出国制限制度等の新設

10.裁判の執行に関する調査手法の充実化

11.刑の時効の停止に関する規定の整備

 

本答申は、令和2年2月21日に法務大臣から,「公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備に関する諮問」(諮問第110号)がなされ、令和2年6月15日から開催された法制審議会 刑事法(逃亡防止関係)部会がとりまとめたものです。

法制審議会の資料によると、平成21年から平成30年までの10年間で保釈率は約2倍に増加しています。しかし、保釈が取り消された者の数が約3倍に増加しており、そのうち令和元年に発生した逃亡事案5件(内、保釈中の事案は4件)を主な事案として取り上げております。この事案の一部は当協会にお申込みをいただいておりましたが、いずれも支援は見送りとなりました。

 

当協会では、申込人の資力要件ではなく、更正支援の観点等で独自の審査を行っているため、前記期間の保釈保証金の立替件数は2.7倍に増えていますが、比べて没取率は1.4倍増に留まっております。しかしながら、法制審議会でも取り上げられました通り、我が国での保釈件数及び保釈の取り消し件数は大きく増加しており、その原因が何処にあるのかを考察しました。

 

司法統計年報及び前出の法制審議会の資料によると、保釈率は平成15年を底に、平成16年から右肩上がりで推移しております。平成25年からは全国弁護士協同組合連合会(以下「全弁協」といいます。)が保釈保証書(以下「保証書」といいます。)発行事業を開始したこともあり、平成30年までは上昇率も徐々に高くなっていきました。(翌令和元年及び令和2年では、保釈率は徐々に下がっております。)

 

保釈が取り消された人員数は平成27年から急増しており、平成30年には142人、令和元年には231人となっております。

これは全弁協の保証書の発行ペースとも比例しており、保証書発行審査の事案による判断ではなく、資力要件で判断を下していた結果ではないでしょうか。全弁協の没取件数は是非公表していただきたく存じます。

そもそも保証書の保釈に対する担保機能としては疑問があります。

当協会でも「保証書がもたらす保釈の末路」と題して特集を組んできました。

特に、平成22年に発行されたLIBRA(東京弁護士会発行 平成22年7月号)にも「我が国の保釈保証制度は、韓国の保釈保証保険制度を参考にされており、我が国でも保険前提であった」、「裁判所が保釈保証金の没取決定等をなした場合には,保険会社が没取金額を国に対し補償することになる。日本でも,日本保釈支援協会等の保釈金を現金で立て替える団体があるが,現金を立て替えるのではなく,保険スキームで行うわけである。」とあります。保険ありきの手続きでは、他国では成功しても我が国での担保機能・威嚇効果は如何ほどかと疑問があります。

事実、薬物事案に対して令和2年には保証書発行額の制限、令和3年には自己負担金と保証料を値上げしているところを鑑みるに、特に薬物事案での没取件数・金額が保険会社からもこのままでは維持出来ない旨の連絡があるほどだったのではないかと思量されます。

 

当協会は、2012年に弁護士を同行し、保釈保証会社による保証書提出という制度を積極的に採用していないとされていたマサチューセッツ州ボストン地方裁判所の保釈に関する責任ある地位にある方に面会。当時の全弁協の構想スキーム(保証書による保釈手続と保険会社を利用する仕組み)を説明したところ、即座に「保証書を利用した保釈制度は詐欺みたいなものだ。」と話しだされました。同氏は、保証書の利用に批判的な理由として、「保証書で保釈手続を行い、保険会社に担保させた場合、被告人の逃亡・罪証隠滅等の抑止力は低下する。裁判所は抑止の為保釈金を釣り上げる。そして、そのことで保釈制度を利用してビジネスを展開する保釈保険業者が増加し、過当競争になり、更に抑止力が低下した結果現実的に必要な保釈金額より遥に高い保釈金が決定される様になった。我が国(米国)のこの様な歴史に学び保証書による運用は、日本においては止めるべきである。」と忠告してくれました。

また、現金納付の場合と保証書を使う場合について保証金額を二重に定める事ができることを、そして当然に保証書利用の場合の方が保証金額は高いことを教示いただきました。

また、このことについて資料の提出を求めたところ、2001年のマサチューセッツ州最高裁判所による、下級審で保証書と現金での納付額を同じにすることを認めた決定に対する保釈決定を取り消す決定をいただきました。詳細は「米国での保釈保証書運用の実態」をご覧いただければと思いますが、結論は「現金納付による保釈金の額である10万ドルと、その10倍(100万ドル)に定められた保証書による場合の額面は、その効果において現金による保釈金と同等である」とするものです。

つまり、保証書による保釈を行う場合、保証金額の10倍を設定しなければ、保釈保証金としての担保機能は得られないということです。

 

また、同決定では、返還される預託金がない保証書よりも、出頭すれば還付される預託金がある現金納付の方が不出頭率は低いことも指摘されております。

当協会では審査において、状況に応じて自己資金を被告人やご家族等に用意・預託いただき、判決後にはそれを還付しております。

全弁協の保証書も、当初は自己負担金が必要でありましたが、現在では薬物事犯以外では自己負担金が不要となりました。前述の通り自己負担金のある保証書自体の担保機能の疑義により保釈取り消し件数が増えていると推察されるなか、このように自己負担金もなくなる運用では、さらなる保釈取り消しが増えるのではないかと不安になります。

 

アメリカでは保釈手続きに保証書を使って60年が経過しましたが、保証書による保釈は失敗だったと断言されています。今では大半の州で現金納付手続きに切り替えています。

全弁協の保釈保証書を担当される部署には、現在の状況を踏まえて是非日本にあった運営をご検討いただければと思います。
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